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Google社の開発した囲碁ソフトAlphaGo(アルファゴ)が、囲碁の世界大会で多数の優勝経験を持つ、韓国の李世ドル(イ・セドル)さんを破ったとニュースになりました。

人間が人工物に負けるというのは、技術が発展する度に起こってきました。暗算がそろばんに、そろばんが電卓に、そしてコンピューターになりました。 AlphaGoの成果は、現象を繰り返し観察することで最適な行動を獲得する技術が、囲碁という極めて多くの局面をもつ複雑なゲームにおいても人間に勝てる程度に成熟しスピードアップしたということです。素晴らしいことですが、それ以上でも以下でもありません。

囲碁ソフトが人間に勝つのが難しいとされていたのは、一手の選択肢の多さと、一手一手の良し悪しの評価の難しさが関係しています。一手一手、樹形的に選択肢をたどりながら、それぞれの局面の良し悪しを判定するやり方だと、時間がかかりすぎるのです。プログラムが自ら学習して選択肢を経験的に狭めていくプロセスを取れたことが、今回の結果に結びついたと云えます。

プログラムが動作するには、明確な制限とゴールが必要です。囲碁や将棋、チェスのようなゲームはプログラムの課題としてはとても分かり易く成果も得やすいと思います。偶然の要素もありませんから、プログラムの良し悪しが明確に勝敗に出ます。プログラム同士の対戦も当然可能ですので、少しずつでも学習し強くなるメカニズムが作れれば、不眠不休のコンピューターはやがて人間に勝つはずで、囲碁の世界では、それが今だったということです。

コンピューターができたからといって暗算が速いという能力が無意味かというと、そうではありません。例えば、宇宙を行く探査機の軌道計算などは、今でも人間が紙とペンを使って、膨大な計算を行っています。そのとき、暗算の能力はとても有効です。軌道計算などプログラムで簡単に割り出していると思われるかもしれませんが、事実はそうではありません。人間の代わりに計算をしているだけで、何をどのように計算するのかは、人間が決めているのです。Jaxaの廣瀬史子氏が「あかつき」の軌道計算を二年半もの間手計算で繰り返したのは、有名なエピソードです。

囲碁のプロ棋士は囲碁の対局をするという職業です。棋譜を残すのが仕事とも云われますが、やはりエンターテインメントとしての価値が大きいでしょう。だとすれば、人間のプロ棋士同士のハイレベルな戦いが、それよりハイレベルなコンピューターの登場によって損なわれることはないはずです。むしろ、 コンピューターがよりハイレベルになって人間に近づき、追い越すことによって、かえって真剣な表情で盤面に向かう人間の魅力に気づかされたような気がします。