訪問営業は昔から最も手軽な営業方法でした。私も幼いころ、自宅に自動車販売の営業マンが売り込みに来ていたのを覚えています。 しかし、今ではほとんどなくなりましたね。残っているのは、住宅関係と、それから、保険くらいでしょうか。


私には小学生の子供が一人おります。 その子が生まれたときに、将来に備えて学資保険に加入しようと考えました。そして、ある保険代理店の営業マンに自宅まで来てもらいました。 その営業マンは大手住宅メーカーの営業マンから転職して、保険の営業を始めていました。 私より十年ほど年上で、はきはきと感じの良い方でした。

当時のことは今でもよく覚えています。その営業マンのNさんは、私たち家族のライフプランを作ったと言って、大きな紙をテーブルに広げました。A3横程の用紙の中には、表組が作られていて、私たち家族の名前が縦軸に、年数が横軸に振ってありました。すべてNさんが、手書きで作ったものでした。

家族の未来の年表を指さしながらのNさんの営業は、聞いていて楽しいものでした。自分の十年後、二十年後を想像するのは愉快なことばかりではありませんが、自分にとっては最も関心のある未来の話ですから、話が膨らみ弾んだのをよく記憶しています。 そして私は、子供の学資保険を契約しました。

時は10年経ち、そろそろ老後の備えでもしてみるかという話になりました。そして再び、あのNさんを呼びました。10年ぶりのNさんは、以前と変わらぬ感じの良い営業マンでした。「お久しぶりです」と取り出したのは、あの大きな紙・・・ではなく、タブレットPCでした。

保険は掛け金と受け取る金額の関係が難しいものです。しかし、タブレットPCを使うと、金額シミュレーションはすべてリアルタイムで出てきます。多様な保険をいろいろと見比べて、あっという間に商品を理解することができました。契約もタブレットで手書きサイン。銀行口座の引き落とし登録も、全て画面内で終了です。完全なペーパーレスが実現されていました。

後日保険の資料を整理していると、10年前の見積書が出てきました。そこには、つい先日契約した保険と全く同じ内容のものがありました。当時学資保険と合せて提案されたものですが、こちらの理解が及ばずに契約に至らなかったものでした。もっと若いころに契約していればと悔やむ内容でした。

紙を広げて楽しい営業も一つのやり方ですが、ITの力を借りて客の理解を高める方法は、顧客にとってとてもありがたいものだとわかりました。 「もうロートルですから」とNさんはタブレットを操作して言っていましたが、私にとってはITを頑張って使いこなすありがたい営業マンでした。